こんにちは。アフリカシアバターの原口です。ブルキナファソの現地の景色をお届けする、現地だより。
アフリカシアバターが取り扱うブルキナファソのシアバターは、「伝統製法を継承している」とお客さまにお伝えしていますが、お客さまから一つの問いをいただきました。果たして「いつから」ブルキナファソではシアバターを使用していたのでしょうか?
ブルキナファソの歴史は、口承による伝統の継承が重要な役割を果たしてきており、文字による継承は多くはありません。しかしその長い歴史を、考古学と過去の西アフリカへの旅人たちの記録を通して、辿ってみたいと思います。ぜひお楽しみください!
*日本語訳がない場合は、本文を掲載した上で翻訳を行なっています

口承での伝統の継承(イメージ)
考古学が明かすシアの「はじまり」ー3000年前の遺跡から出土!?
ブルキナファソ中部にあるのキリコンゴ(Kirikongo)遺跡では、驚くべき発見がありました。 Gallagher, Dueppen, Walsh(2016)の研究によると、実は紀元前1000年頃の地層からシアの殻が出土していることがわかっています。
Shea nut shells were recovered from early Iron Age contexts, indicating long-term use of *Vitellaria products.
Gallagher, D.J., Dueppen, S.A., & Walsh, K. (2016)
鉄器時代初期の層からシアの殻が発見され、ヴィテラリアの利用が長期に渡り行われていたことを示している。
*ヴィテラリアはシアの木

キリコンゴ遺跡があるデドゥグ
つまり、約3,000年前の人々もすでにシアを使っていたということです。当時、シアバターを作る技術があったのか、果実をそのまま食べていたのかは分かりませんが、確かに「シアの利用の痕跡」が残っているそうです。また、村の焚き火跡からは脂質の残留物も見つかっており、動物油と植物油の混合が検出されていると言われています。この地では、はるか昔から「油の文化」が根づいていたのです。

集められたシアの実(2024年原口撮影)
旅人が見た「木のバター」―14世紀の旅行家イブン=バットゥータ
シアの記憶が文字として文献に現れるのは、14世紀のモロッコ人旅行家イブン=バットゥータの著作です。彼はイスラーム世界を30年かけて旅して、西アフリカの王国を訪れた際にこう書いています。
They have a tree which resembles the walnut; from its fruit they extract a butter which they use in cooking and upon their bodies.
Cambridge: Hakluyt Society (1958)
彼らの地にはクルミに似た木があり、その実からバターを抽出して料理や身体に塗るのに使っている。
ここに登場する “a butter”こそ、後に「シアバター」と呼ばれるものです。この記録から、14世紀の時点で、シアが食用・美容用・交易品として、すでに定着していたことがわかります。それが、約700年前の記憶です。

イブン=バットゥータの著書
このように、シアは長い間、ブルキナファソの人々の生活に欠かせない「日常のオイル」として、食を支えて、肌を守るものとして、使われてきたのです。
探検家マンゴ・パークが見たシア
18世紀末、スコットランドの探検家マンゴ・パークが西アフリカを訪れ、彼の著作「ニジェール探検行」には当時の暮らしの様子が生き生きと描かれています。パークはニジェール川流域でこう記しています。
この地方には“バターの木”がどこにでもある。その実からは、家々でバターのような油が作られ、料理にも肌にも使われている。

シアの実
彼は女性たちが油を作る過程を詳しく観察しています。
女たちは熟した実を火にかけて煮る。殻を割り、白い核を取り出し、臼で細かく砕く。それを熱湯に混ぜてかき回すと、表面に油が浮かび上がる。これを集めて冷やすと、固まった淡い色のバターができあがる。
この描写は、今ブルキナファソの村で行われている製法とほとんど変わりません。約300年前からも女性たちの手の動きは同じなのです。

シアバターを作る様子
そして、もう一つ印象的な記述があります。
このバターは、牛のバターよりも日持ちがよく、暑さの中でも腐らない。だから交易品としても重宝され、多くの村でこれを作って売っている。
彼の著書から、当時すでにシアバターが地域経済を支える主要な生産物だったことがわかります。マンゴ・パークは「その産物は広く消費されている」と記し、女性たちの手仕事が地域を動かしていたことを伝えています。

シアの木と女性たち
現代の考古学や民族植物学でも、この長い歴史が裏づけられています。ブルキナファソの地方では、今も女性たちが雨季の終わりに、シアの実を拾い煮て、かき混ぜて、シアバターを作る。みんなで集い、笑い合いながら働く姿は、約3000年前の古代のキリコンゴ遺跡の人々と重なるのかもしれません。考古学の発掘現場と、現代の村の風景が、ひとつの線で繋がっています。
シアバターは、単なる植物オイルではなく、女性たちの知恵と手仕事の歴史であり、土地と共に生きる文化の結晶。肌を守る優しいオイルが、同時に地域の経済や共同体を守ってきたのです。

シアは「原料」ではなく「記憶」
シアの木の下では、時代が交わります。紀元前の鉄器時代の村人も、14世紀や18世紀の旅人も、そして今の女性たちも――みんな同じオイルを手にしてきました。そのオイルは、暮らしと祈り、そして希望のオイルです。シアバターは単なる「化粧品の原料」ではなく、三千年にわたって受け継がれてきた、人と自然の記憶そのものです。
私たちが今日シアバターを使う時、その柔らかなバターのようなオイルの向こうに、遠い昔の人々の手のぬくもりが確かに息づいています。

参考文献 Gallagher, D.J., Dueppen, S.A., & Walsh, K. (2016), Kirikongo: The archaeology of a first-millennium village in Burkina Faso. Journal of African Archaeology. Ibn Battuta, The Travels of Ibn Battuta, trans. H.A.R. Gibb (Cambridge: Hakluyt Society, 1958). Leo Africanus, Description of Africa (1526) マンゴ・パーク『ニジェール探検行』中村安希訳(世界探検全集、河出書房新社) Dueppen, S.A. (2012). Ethnoarchaeology of Food and Community in West Africa
※現地だよりは見聞録も含まれるため、正式名称などが異なる場合があります。
アフリカシアバター
ブルキナファソが原産国のシアバター専門ブランド。サステナブル・エシカルなシア脂の仕入製造販売(法人向けBtoB)。オーガニックコスメブランド・化粧品ブランド・美容室などを対象に、スキンケア・ボディケア・ヘアケアなどのオリジナルプロダクトへの配合実績あり。シアバターを配合したレザーケアクリームのOEM企画も展開。
■会社名:ボーダレス・ブルキナファソ
■代表:原口 瑛子
■住所:BP 2621 OUAGA C.N.T, Ouagadougou, Burkina Faso
■公式サイト:https://africa-shea-butter.com/
■公式Instagram:https://www.instagram.com/africa_shea_butter/